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広島地方裁判所尾道支部 昭和53年(ワ)58号 判決 1980年7月15日

原告

山田まり子

被告

因の島運輸株式会社

主文

被告は、原告に対し、金二九一万二九三五円及び内金二六一万二九三五円に対する昭和五〇年五月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金七八〇万一〇五六円及び内金七四〇万一〇五六円に対する昭和五〇年五月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五〇年五月八日午前七時五五分ころ

(二) 場所 因島市三庄町二六七九―二先県道上

(三) 加害車 被告所有の大型バス

(四) 被害者 原告(当時八歳)

(五) 態様 道路端に寄つて加害車を待避していた原告を、加害車がその左前バンバーにひつかけ、その場に転倒させてその両足を轢いた。

2  責任原因

被告は、加害車を所有し、自己のためにこれを運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 治療費 一七二万二一八〇円

原告は、本件事故により、右腓骨骨折、左下腿挫滅創の傷害を受け、その治療費として次の金員を支払つた。

(イ) 田中医院 六万三二二〇円

(ロ) 日立造船因島病院 一六四万四九〇五円

(ハ) 大阪白壁整形外科 四〇〇〇円

(ニ) 広島市民病院 六五五五円

(ホ) 慶応義塾大学病院 三五〇〇円

(二) 入院雑費 五万四〇〇〇円

原告は、昭和五〇年五月八日から同年同月一〇日まで田中医院に、同日から同年八月二三日まで日立造船因島病院にそれぞれ入院し、その間(合計一〇八日間)雑費として一日あたり五〇〇円の割合による金員を支出した。

(三) 入通院付添費 一二万二〇〇〇円

(イ) 原告は、田中医院に入院中の昭和五〇年五月八日から同月一〇日まで及び日立造船因島病院に入院中の同年同月一六日から同年六月三〇日まで父または母の付添を要し、その付添費用として合計金一〇万六〇〇〇円の損害を被つた。

(ロ) さらに、原告は、大阪市立総合病院へ昭和五〇年八月ころ二日間、大阪白壁整形外科へ昭和五一年一二月二六、二七日の二日間、広島市民病院、平和整形外科へ昭和五二年八月一八、一九日の二日間、慶応義塾大学病院へ同年同月二九、三〇日の二日間、それぞれ通院した際父母の付添を要し、その付添費用として合計金一万六〇〇〇円の損害を被つた。

(四) 通院交通費、宿泊費 一一万六三八〇円

原告は、前記のとおり各病院(医院)へ通院するについて、原告及び父母の交通費、宿泊費として次のとおり支出した。

(イ) 大阪市立総合病院への通院交通費 一万二三五〇円

(ロ) 大阪白壁整形外科への通院交通費 二万四七八〇円

(ハ) 広島市民病院及び平和整形外科への通院交通費 一万三三〇〇円

(ニ) 慶応義塾大学病院への通院交通費及び宿泊費 六万五九五〇円

(五) 逸失利益 二六七万四六二一円

原告は、本件事故により、左下腿が萎縮し左下腿全体に広範囲の醜状痕が残る後遺症を受け、そのため一四パーセントの労働能力を喪失した。原告は、事故当時八歳の女子であつて一八歳から六七歳まで稼働可能であるから、昭和五〇年度賃金センサスによる一八歳女子平均賃金年間九九万七一〇〇円を基礎にして、原告の将来の逸失利益を新ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、二六七万四六二一円となる。

(六) 慰藉料 四九七万円

原告は、本件事故により、左下肢全体にわたつて醜状痕を残す後遺症を受けたが、これが将来女性として結婚の支障となり、生涯の重荷となることは明らかであり、さらに右傷害について将来再手術をしなければ左下肢に機能障害を残すことが確実であつて、再手術のためには、入院約三〇日、治療費約一〇〇万円が必要である。右のような後遺症の程度、前記の入、通院の期間等諸般の事情に鑑みると、原告の精神的損害を慰藉すべき額は、四九七万円が相当である。

(七) 損害の填補 二二五万八一二五円

原告は、被告から本件損害金の一部として二二五万八一二五円の支払を受けた。

(八) 弁護士費用 四〇万円

原告は本件訴訟を本件原告訴訟代理人に委任し、手数料報酬として金四〇万円を支払うことを約した。

4  よつて、原告は、被告に対し、右損害金合計七八〇万一〇五六円及び弁護士費用を除いた内金七四〇万一〇五六円に対する昭和五〇年五月八日(本件事故発生の日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実のうち、(一)ないし(四)及び(七)は認める(但し(一)の(ハ)ないし(ホ)は不知)が、(五)及び(六)は争い、(八)は知らない。

3  被告は、原告に対し、本件事故による損害賠償金として、合計金三四〇万一六二五円を支払つており、原告が自認している金額以上に損害の填補がなされている。

三  被告の主張に対する原告の認否

被告主張の損害の填補は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因3(損害)のうち、(一)(治療費、但し同(ハ)ないし(ホ)を除く)、(二)(入院雑費)、(三)(入・通院付添費)、(四)(通院交通費等)の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一一ないし第一四号証によれば、右(一)の(ハ)ないし(ホ)の各事実(原告が本件事故による傷害の治療費として大阪白壁整形外科へ四〇〇〇円、広島市民病院へ六五五五円、慶応義塾大学病院へ三五〇〇円をそれぞれ支払つたこと)が認められる。

三  後遺障害による逸失利益

いずれも成立に争いのない甲第一ないし第三号証、同第七号証、同第一七号証、昭和五一年二月原告の左下腿部を撮影した写真であることにつき当事者間に争いのない甲第一六号証の一ないし三及び原告法定代理人山田すみ子本人尋問の結果並びに前記当事者間に争いのない事実を総合すると、原告は昭和四二年五月三日生れの健康な女子であつて、本件事故当時満八歳であつたところ本件事故により左腓骨骨折、左下腿挫滅創の傷害を受けたが、右傷害は昭和五一年四月一二日左下腿膝関節部前後面に醜状著しく沈着色素の濃い各手掌大のケロイド状瘢痕を、右部分以外の左下腿全般に右部分と比べてやや着色のうすい醜形も軽度の醜状瘢痕をそれぞれ残して治癒したこと、右醜状は一見して人眼につく程度以上のものであり、将来、手術を行つてもあまり改善されず、かえつて今後瘢痕性拘縮が増強し形成手術を施さなければ運動機能障害を残すと予想されること、右後遺症は自賠法施行令別表一二級以上に該当する程度のものであることが認められる。

ところで、後遺障害により労働能力を喪失したとして将来の逸失利益を請求するには、その障害によつて通常の労働に支障を来すことが予想され、かつその労働能力喪失の割合及び期間が相当程度合理的に予測しうることが必要であると解されるところ、前記のような内容、程度の後遺症によつて、現在原告がその労働能力の一部を喪失し、その状態が将来原告の就労するようになるとき(原告の主張によれば一八歳に達するとき)まで続き、さらにその後も継続してその労働能力喪失期間が存続することを認めるに足りる証拠はないし、また右醜状瘢痕が将来原告の希望する職業についてその就労を困難ならしめ、または就労できたとしても収益の減少をきたすものであることを認めるに足りる特段の証拠もない。

したがつて、後遺障害による逸失利益は認めることができず、この点についての原告の主張は慰藉料額の算定において斟酌するに止めることとする。

四  慰藉料

前記のような原告の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容程度、原告の年齢、とくに原告の受傷部位は今後瘢痕性拘縮が増強しそれによる機能障害に除去するためには将来形成手術を施す必要があること、原告は将来進学、就職、結婚等を控えた女性として、今後長期間にわたり衆人の目を意識して並々ならぬ精神的苦しみを味わつて生きて行かなければならないこと、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、原告の慰藉料額は四〇〇万円とするのが相当であると認められる。

五  損害の填補

原告が前記損害の填補として、被告から合計金三四〇万一六二五円を受領したことは当事者間に争いがない。

よつて原告の前記損害額合計六〇一万四五六〇円から右填補分を差引くと残損害額は二六一万二九三五円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

よつて原告の本訴請求は、被告に対し、二九一万二九三五円及び右金員から弁護士費用を控除した残額二六一万二九三五円に対する本件事故発生の日である昭和五〇年五月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 市川頼明)

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